HIVとともに生きる
HIVとともに生きる
現在、地球規模で最も深刻な感染症の一つHIV/エイズ。医療の進展とともに服薬を続ければ死に至らず、ほかの人と同じ生活ができるようになった。だがジェンダーやセクシュアリティ、病いや障がいなど交差的な差別や偏見はいまだに根強い。日本で「HIVとともに生きる」ことはいったいどのようなことなのだろうか。
ゲイ男性を中心にHIV陽性者百余人と交流し、22人のライフヒストリーを聴き、かれらが書いた手記などの史資料も読み込み、生活史に深く迫る。当事者と支援者がおこなってきた協働的な実践を掘り起こし、周囲に創造的に関わりながら包摂する力を発見していく。
傷つきとレジリエンス、病いの語り、クィア理論や批判理論など社会学理論から、一人ひとりが苦しみのなかで培ってきた生きる力が、社会とどのように接合し社会を構想できるかを浮き彫りにする。傷ついた生の意味を協働で探り、親密性や共同性を育む「生きるための理論」を探求するラディカルな生活史研究。
目次
序 章 性と病い/健康をめぐるフィールドワーク
1 HIV/エイズについて――本書の目的
2 HIVをめぐる社会学的想像力――なぜ陽性者の生に焦点を当てるのか
3 HIV陽性になるということ――フィールドに入る
4 HIVをめぐるオートエスノグラフィー――診断前
5 フィールドワークとしての日常生活
6 本書の問いと意義――HIVとともに生きるとはどのようなことか
第1章 HIVをめぐる社会学的研究
1 社会的病いとしてのHIV/エイズの歴史
2 HIVとともに生きる人々をめぐる研究の系譜
3 本書の位置づけ――HIVとともに生きることをめぐるライフヒストリー研究
4 本書の目的と意義――洞察を紡ぎ出し社会を構想するライフヒストリー研究
5 研究方法・調査概要
6 本書の構成
第2章 フィールドとしての個人――ライフヒストリー研究の再帰的/反省的転回
1 ライフヒストリー研究と批判理論
2 病いの語り、病いの軌跡、傷ついた物語の語り手
3 素人専門家(Lay Expert)から当事者のより積極的な参画(GIPA Principle)へ
4 HIVとともに生きること――傷つき/可傷性とレジリエンス
5 小括――HIVとともに生きる人々の生存とレジリエンス
第3章 当事者から始まるエイズ・アクティヴィズム――生きるための理論と実践
1 リヴィング・ポリティクス
2 ゲイ雑誌「G-men」にみるグラスルーツ・アクティヴィズム
3 「SHIP NEWSLETTER」手記にみるヘルスリテラシー向上実践
4 ピアサポートの変遷と現在的意義・課題
5 地域でのケアの担い手
第4章 スティグマとレジリエンスの社会学
1 HIVに関するスティグマの概念化
2 重層的スティグマと社会的排除
3 レジリエンスへの着目
4 社会的排除からの対抗戦略――ライフ・ポリティクスとリヴィング・ポリティクス
第5章 混沌を受容できる場/関係性――多声性・異種混交性と共同性・親密性
1 混沌をライフヒストリーの一部として受容する力
2 親密性と共同性を紡ぐ「愛の技法」
3 小括――ライフヒストリーの生成継承性
第6章 ラディカル・ライフヒストリー研究に向けて――生きるための理論を紡ぐ/社会を構想する
1 生きるための理論に向けて
2 ラディカル・ライフヒストリー研究に向けて
3 声なき声としての「混沌の語り」に敬意を払うこと
4 「HIVとともに生きる」とはどのようなことか
5 本書の限界と今後の展望
終章 まとめ――本書の意義と貢献
あとがき
著者プロフィル
大島 岳(オオシマ ガク)
明治大学情報コミュニケーション学部専任助教。専攻は社会学、生活史・オーラルヒストリー研究、ジェンダー・セクシュアリティ研究。論文に“Societal Envisioning of Biographical AIDS Activism among Gay People Living with HIV in Japan”(Historical Social Research, 48(4))、「HIV陽性者の生存への希望はいかに育まれてきたのか――1990年代SHIP Newsletterのヘルスリテラシー向上のための取りくみとGIPA」(「保健医療社会学論集」第31巻第1号)、「ゲイ雑誌『G-men』にみるグラスルーツ・アクティヴィズム」(「年報社会学論集」第32号)、「「性的冒険主義」を生きる――若年ゲイ男性のライフストーリーにみる男らしさ規範と性」(「新社会学研究」第1号)など。